禅宗の僧侶をやっておりますと、禅問答に必ず出逢います。ある時は、自分が問いかけたり、またある時は自分が問いかけられる側であったり、あるいは他の和尚さんの問答を見守ることもございます。今月の表題は、私が修行時代に、同期の修行僧がその時の修行僧の中のリーダーに対してかけた問いでございます。
問、一円相何を示すや
答、暗闇に一本の線香を見つめよ。さすれば一円相が浮かぶなり。
「一筆で書いた円は、何を表現しているのですか?」と言う問いに対し上記の通り、「暗闇に一本の線香を見なさい」と答えが返って来たのでした。何となく印象的だったので、今でも覚えているのですが、正直に言いまして、意味がわかりませんでしたし、数年たった今でもわかりません。
しかし、夜の薄明かりのなか、線香を立てて見ますると、火がつくほんの一瞬、パッと光の輪が出来上がります。それは一瞬で消えてしまいましたが、確かに、一円相の様なものでございました。
我々の様な禅宗の者が第一としております坐禅修行において、座る際は必ず線香を灯します。線香が燃え尽きれば、また新しいものを立てて、座るのです。線香に火を灯す度、一瞬の円相に出会い、また次の線香に火を灯して一瞬の円相に出会い・・・これを繰り返していく・・・
円というものは、一度書いてしまいますと、終わりも始まりも見えなくなってしまいます。ですから、もしかしたら、当時のリーダーの修行僧は「禅僧にとって円相とは、日々の生活や修行のことを指し、それに終わりなく、また始まりもない。ただ、丁寧に行じなさい。」そんなことを伝えたかったのかもしれません。
本文をお読みの皆様にとっての「円相」とは何でしょうか?ある人にとって、それは料理をすることかもしれないですし、あるいは楽器を演奏することや、家のお掃除をすることかもしれません。人生の中で、大切に、丁寧に行ずる何かを見つける為、少しばかり自分の行動や過去を振り返って見てはいかかでしょうか。